一人会社の場合はどうなる?取締役と会社の「利益相反取引」とは?

ビジネス法務一般

こんにちは。甲斐です。

株式会社や合同会社は法律上、「一人の人間」として取り扱われ、契約等の法律行為も会社の名前で行う事ができます。

「一人の人間」として取り扱われる事は非常に便利なのですがその反面、個人事業主では考えられなかった問題も出てきます。

今回はその問題の一つでもある「利益相反取引」についてお話していきましょう。

1.「利益相反取引」とは?

利益相反取引(りえきそうはんとりひき)とは、ある取引において一方は利益を得るけれど、一方には不利益が生じる取引の事です。

と、これだと良く分からないと思いますので、具体例で利益相反取引を見て行きましょう。

例えば不動産の売買の場面。

売主は出来るだけ高く売りたいと思います。反対に買主は出来るだけ安く買いたい思います(当たり前と言えば当たり前ですよね)。

では、次の場合を考えてみましょう。

売主:株式会社X
買主:株式会社Xの取締役Y

株式会社X:不動産を高く売りたい。
取締役Y:不動産を安く買いたい。

となりますよね。

ところで、YはX社の取締役です。つまり、不動産の価格についてアレコレと決める事ができる立場にあります。

つまり、X社の利益を無視してY個人(自分)の為に安く不動産を購入する、と言う事が可能になってしまいます。

これが典型的な利益相反取引なのですが、次は会社内で起こる得る利益相反取引を詳しく見て行きましょう。

2.具体的な「利益相反取引」の形とは?

① 直接取引

直接取引とは、取締役が当事者として直接取引する事です(会社法356条)。

第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 (略)
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき

直接取引の具体例としては、上でご紹介した売買契約以外にも、以下の例が挙げられます。

  • 会社から取締役への財産の贈与。
  • 会社の製品の取締役への譲渡。
  • 取締役から会社への金銭の貸し付け。(ただし、無利息・無担保は除く。)

② 間接取引

間接取引とは、会社が取締役本人以外の第三者と取引する事ですが、会社と取締役の間に利益相反関係が発生する取引です(会社法356条1項3号)。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

関節取引の具体例として、以下の例が挙げられます。

  • 会社が取締役個人に対して債務を保証する行為。
  • 会社による取締役個人の債務の引受。
  • 会社による取締役の債務を物上保証する行為。

3.利益相反取引を行う場合、株主総会または取締役会の承認が必要

① 利益相反取引を行うには株主総会または取締役会の承認が必要

会社と取締役の利益相反取引は法律上禁じられているわけではなく、株主総会または取締役会の承認があれば有効となります。

取締役会を設置している会社では取締役会、取締役会を設置していない会社では株主総会での承認がそれぞれ必要になってきます。

なお、承認のない利益相反取引は無効となります。

② 取締役会や株主総会の承認が必要ないケース

利益相反取引に承認が必要な理由は、会社に損害が生じることを防ぐ為です。

つまり、取引によって、会社に損害が生じる可能性がない場合は、株主総会や取締役会の承認は不要となります。

例えば、取締役から会社へ財産を贈与する場合や取締役が会社に無利子・無担保で金銭の貸付を行う場合、会社に対して損害が生じる可能性が無いため、取締役会や株主総会の承認は不要となります。

4.承認決議の注意点

利益相反取引において、会社と利害が対立している取締役本人は、「特別利害関係人」に該当するので、承認決議に参加することができません。

例えば取締役会が承認機関の場合、その取締役会の議事に参加する事が出来ないと言う事です(会社法369条)。

第三百六十九条 
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。

5.株主=代表取締役の一人会社はどうなる?

利益相反取引で取締役会や株主総会の承認が必要な理由は、取締役本人または第三者の利益を図り、会社に損害を与える事を防止する事にあります。

では、いわゆる一人会社、唯一の株主=(代表)取締役の場合はどうでしょうか?

会社と取締役は別人だとしても、100%の株式を保有している株主が唯一の取締役であれば、実質的に同一人物と言えます。

その為、取締役が守るべき義務に違反して会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図るといった事態が生じないので、取締役会等の承認は不要とされています。

また、判例上、一人会社における取締役と会社との取引については、利益相反取引(直接取引)に該当しないものとされています(最高裁昭和45年8月20日)。

6.まとめ

一人会社の場合、利益相反取引は気にする必要はありませんが、何人かで会社を設立した場合、この利益相反取引は意識する必要があるでしょう。

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甲斐 智也

甲斐 智也

表現者。元舞台俳優。演劇を活用した論理と感性のハイブリッドコンサル。趣味はキックボクシングとランニング

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表現者。元舞台俳優。演劇を活用した論理と感性のハイブリッドコンサル (詳しい自己紹介は画像をクリック!)。

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