「インフルエンサーの〇〇は詐欺師」とツイートしてはいけない理由

法律知識一般

こんにちは。司法書士の甲斐(@tomoya_kai)です。

今は少し落ち着いたように見えますが、ちょっと前は情報商材屋が猛威を振るっており、その被害者と思われる方の「〇〇は詐欺師だ!」と言う趣旨のツイートを良く目にしました。

そして「詐欺師だ!」と言われた方、特にインフルエンサーと呼ばれる人から「詐欺なんてやっていない!誹謗中傷だ!訴えてやる!!」と言った泥仕合に発展したり・・・。

まぁ、ツイートした本人は正義感から悪は許せない!と言う意識でツイートをしたと思うのですが、仮にこの件で裁判(民事訴訟)をインフルエンサー側から起こされた場合、非常にやっかいな事になるのです。

今回はそのやっかいな話、「インフルエンサーの〇〇は詐欺師」とツイートしてはいけない理由をお話していきます。

なお、今回のお話は民事上の名誉毀損のお話になります。

刑事罰の名誉毀損罪や侮辱罪、民事上の名誉感情侵害についても一緒にしてしまうと、話がアッチコッチに飛ぶ可能性があり、今回は触れませんのでご了承下さい。

1.法律用語で言う「事実」とは?

最初に一つだけ注意点を挙げておきます。

法律の世界では「事実」と言う言葉が良く出てきますが、この「事実」の意味は、日常会話で使われている「事実」とは少し異なりますので注意して下さい。

法律用語で言う「事実」というのは、「本当か嘘か」とは無関係で単純に「客観的な証拠で判断できる具体的な事柄」と言う意味です。

例えば、

・「〇〇食堂の焼肉定食は900円だ」は事実です。
・「〇〇食堂の焼肉定食は1200円だ(本当は900円))」も法律用語としては「事実」に該当します。
・「〇〇食堂の焼肉定食は不味い」は法律用語の「事実」に該当しません。
(あくまで主観的な感想で証拠で判断する事は出来ませんので。)

今回の記事も「事実」と言う言葉が度々出てきますが、上記の意味である事を頭の片隅に入れて読んで下さい。

なお、法律用語で言う「真実」は、「本当の事」の意味で使われています。

2.民事上の名誉毀損が成立するには?

民事上の名誉毀損に関係する条文は民法の709条と710条です。

民法709条が不法行為による損害賠償請求、710条が精神的苦痛に対する慰謝料請求を定めた条文です。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

これらの条文がある為、「〇〇は詐欺師」とTwitterでツイートする事(他のSNSでも同様)が不法行為に該当する可能性が出てくるのです。
正確に言いますと、一般読者が普通の注意と読み方をして「〇〇は詐欺をやったんだ!」と解釈できる場合、不法行為に該当する可能性があります。
それでは、どのような条件が満たされたら不法行為になるのか、もう少し丁寧に見て行きましょう。

① 権利又は法律上保護される利益の侵害

名誉毀損は、誰かの社会的評価を低下させる事によって成立します。

その判断基準は、上述のとおり「一般読者がその表現を見た場合にどうか?」と言うのが基準になります。

今回の「〇〇は詐欺師だ」の場合、「詐欺」と言うのは犯罪であり、犯罪者である事実を適示する事は、通常対象者の名誉を毀損します。

その為、名誉毀損を構成する程度の社会的評価の低下があったと言えます。

社会的評価の低下の有無の判断は通常困難ですが、犯罪者である事実を適示した場合、判例では、社会的評価が低下したとの認定が比較的容易になされています。

なお、「〇〇は元々社会的評価がない(または低下済み)。だから社会的評価が低下する事はあり得ない」と反論される方がたまにいますが、これは間違いです。

そもそも、社会的評価がないと言う事はあり得ませんし、既に社会的評価が低下しているからと言って、さらに低下しないと言う事もあり得ないからです。

② 違法性

名誉権は「権利」であり、その権利を侵害する事は、原則的に違法性があります。

しかし、判例によって「真実性の法理」と呼ばれる違法性阻却事由が認められています。

【違法性阻却事由】
違法とはならない理由です。この違法性阻却事由があれば、不法行為に該当しない事になります。
【真実性の法理】
① 名誉毀損行為が公共の利害に関する事実にかかること
② その目的がもっぱら公益に図ることにあること
③ 適示した事実が真実であるか、又は、真実と信じるについて相当の理由がある場合

上記の①~③が認められたら、違法性阻却事由が認められる事になります。

なお、意見や論評については真実性の法理と良く似ている、「公正な論評の法理」が適用されます。

違法性阻却事由については、後ほど詳しく解説します。

③ 行為者の故意・過失

不法行為が成立する為には、行為者の故意や過失があった事が必要になってきます。

ただし、特定の誰かの名誉を毀損した場合、故意や過失があった言える場合が多く、実務上は故意・過失が独立して問題になる事は多くありません。

④ 損害、因果関係

「因果関係」とは、その行為から通常、その結果が生じると言える関係を言います。

名誉毀損が認められた場合、通常は相当額の慰謝料(精神的損害)が因果関係のある損害として認められます。

3.違法性阻却事由について

おそらく、皆さんが知りたいのはこの「違法性阻却事由」でしょう。

「詐欺行為を行っているインフルエンサーがいる。騙される人間を少しでも減らす為、『〇〇は詐欺師だ!』と言って何が悪いのか?オレには正当な理由がある」と。

特定の誰かを「詐欺師」と呼んだ場合、裁判になれば不法行為に該当する可能性が高いのですが、違法性を免れる為には、上記の「真実性の法理」を立証する必要があります。

では、その違法性阻却事由「真実性の法理」を丁寧に見て行きましょう。

① 名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係ること(公共性)

公共性に関して問題になる場合、対象者の属性として政治家や公務員について、公共性が認められる事が多くなっています。

一方、いわゆる一般の人である「私人」は、公共性が否定される事が多いです。

ただし、犯罪行為や違法行為を指摘する行為については、公共性が肯定された裁判例があります。

その為、今回問題に挙げている「〇〇は詐欺師だ!」ついては、詐欺である事の詳細な事実を指摘する事で、公共性が認められる可能性があるかもしれません。

② その目的がもっぱら公益に図ることにあること(公益性)

個人的にはこの「その目的がもっぱら公益に図ることにあること」(公益性)がポイントだと思っています。

インフルエンサーに対して詐欺師等と主張している人達(いわゆるアンチ)は、あくまで正当な批判であるとしつつ、その実態はインフルエンサーへの嫌がらせや攻撃が目的となっているケースがあるからです。

例えば、ブログ上に特定の人物について名誉毀損投稿だけではなく、「絶対に許さない」等投稿した事を加味して(その目的が復讐等であると判断され)、公益性を否定した判例もあります(東京地裁平成29年12月26日)。

このように、公益性の認定については、その表現方法やその他の客観的な事情から判断される事があります。

その内容、体裁及び投稿した文脈から考え、インフルエンサーを揶揄し、又は蔑む目的でSNSの投稿を行ったり、ブログを書いた場合、公益性は否定されます。

また、Twitterの「拡散希望」も注意が必要です。

特定の誰かの悪事を暴きたい為に誹謗中傷のツイートを行い、それを拡散希望のハッシュタグ等で拡散を望むことを示唆する投稿について、公益性を否定した判例があります(東京地裁平成28年10月3日)。

③ 適示した事実が真実であるか、又は、真実と信じるについて相当の理由がある場合(真実性)

真実性の法理の3番目は、真実性の問題です。

「〇〇は詐欺師だ!」とツイートし、裁判で争われ違法性を免れる為には、

・対象者が実際に詐欺を行った事
・又は詐欺を行ったと信じるについて相当な理由がある事

を立証する必要があります。

詐欺と言うのは「初めから騙す目的があった」事の立証が必要になります。

特殊詐欺とか結婚詐欺と言った分かりやすい詐欺であれば立証が可能かも知れませんが、そうではない場合、詐欺である事の証明やそれを信じた事について相当の理由を立証する事は困難でしょう。

4.まとめ

人としての正義感から、騙される人を一人でも減らそうとして「〇〇は詐欺師だ!」と言いたくなる気持ちは理解できます。

ただし、特定の誰かに対し不用意に「詐欺師」と言う言葉を使用すると不法行為になる可能性がありますし、違法性阻却事由を主張するにしても非常に高いハードルがあるのです。

「それでも構わない。訴訟になったらどちらかが破滅するまで徹底的にやってやる!」

と思われているのであればそれはそれで構わないのですが、その覚悟が無いのであれば、言葉は慎重に選んで、適切な批判にとどめておく方が無難でしょう。

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