こんにちは。甲斐です。
北海道・知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船が遭難し、多数の死者が出ると言う痛ましい事故が起きました。
亡くなられた方のこと及びそのご家族の方のお気持ちを考えると、大変胸が苦しくなります。
また、この事件に関しては観光船の会社社長の対応・態度について、多くの批判が寄せられています。
このように会社が何らかの不祥事・事故を起こした際、社長の責任について言及される事があるのですが、社長の「法律上の責任」ついて、具体的にどのような事が定められているのか?と言う事を今回はお話したいと思います。
起業して会社を設立し、従業員を雇ったら「社長としての法律上の責任」は絶対に意識しなければいけませんので。
1.社長の一般的な法律上の責任
まずは会社が不祥事を起こした際の、社長の一般的な法律上の責任を見て見ましょう。
民法715条1項です。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
(以下、省略)
使用する者=会社、被用者=従業員の事ですね。
つまり、会社は従業員が起こした不祥事について、第三者に与えた損害賠償責任を原則負う事になります。そして社長は会社の代表者として、この損害賠償に対する対応を行う必要があります。
「従業員がやった事なんて、オレ知らねーし」なんて言い訳は通用しないと言う事です(まぁ、当たり前ですが)。
以上は会社の代表者としての責任ですが、実は社長が個人的に責任を負う場合の規定が会社法にあります(会社法第429条)。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
「悪意又は重大な過失」とあるので、きちんと職務を行っている場合は社長の個人的な責任は追及されないような規定となっていますが、逆に言えば「ちゃんと職務を行わないといけない」と言う事になりますので要注意です。
それでは、次に具体的な事例による社長の責任を見ていきましょう。
2.会社の不祥事における社長(代表取締役)の具体的な責任
① 製品事故を起こした場合
メーカーが製造した製品について、その欠陥を原因として消費者に損害が生じた場合、「製造物責任法」の適用を受ける事があります。
この場合に被害の対応を行うのは会社(メーカー)ですが、例えば社長が欠陥のある事を知りながら隠ぺいしたり放置等を行った場合、社長個人の責任が追及される事があります。
なお、製品に関して重大事故が発生した場合には、会社(メーカー)は製品をリコール(製品の回収や無償修理)をする事が要求されます。
② 食中毒を起こしてしまった場合
日本人の食の安全に対する意識は非常に高く、飲食店で何らかの原因による食中毒が発生した場合、マスコミで大々的に報道されます。
このように食中毒の発生は企業にとって社会的信用を失い、業績に深刻なダメージを受ける事になります。
食の安全に関する法律として「食品衛生法」があり、食中毒が起きた結果として食品衛生法に違反したと認められた場合、会社は営業許可の取り消しや営業の禁止・停止の措置を受ける可能性があります。
社長の責任としては会社法第429条に基づき個人的な責任を負う可能性もありますし、食品衛生法の規制に違反した場合、刑事罰を受ける可能性も出てきます。
③ 不適切な広告を行ってしまった場合
不適切な広告を規制する為の法律「景品表示法」に違反した場合のお話です。
良く有る例が「数字を盛る」ですね。「就職率95%!」と言いつつ実際はそれよりもかなり低い数字とか。
景品表示法違反に該当した場合、その企業は内閣総理大臣より措置命令(行為の差し止め等)、警告などの処分がなされます。
上記の措置命令は企業名や処分内容が公表される為、会社の社会的信用が著しく低下したり、消費者に対して何らかの補償を行う必要が出てくる可能性があります。
その結果として会社に損害が発生した場合は、社長個人が株主等から法的責任を追及される可能性もあります。
3.まとめ
代表的な事例を挙げてみましたが、社長が会社代表者として、個人として責任を負うケースはまだまだ沢山存在します。
「会社と社長個人は別人格」と良く言われていますが、場合によっては社長「個人」が法的責任を負う場合がある事に注意しましょう。