こんにちは。甲斐です。
ビジネスを行っていると、売買代金の請求権や請負代金の請求権等、主にお客さんに対するなんらかのお金を請求する権利が発生する事があります。
ビジネスにおける取引とは法律行為でありますので上記のような請求権が発生するのは当然と言えば当然です。
で、通常は何も問題なくお客さんは代金を支払ってくれると思うのですが、何かしらの事情からお客さんが代金を支払わない事があります。
このときに何も行わなければ「消滅時効」と言って、上記の権利が消えることがあるのです。
個人事業主や会社経営者であればこの「消滅時効」は聞いた事があると思うのですが、実はこの消滅時効、最近法改正があり、勉強をしていないと少し混乱してしまう部分なんです。
その為、今回は消滅時効に関する知識を個人事業主や会社経営向けに分かりやすく解説したいと思います。
1.消滅時効とは?消滅期間やその起算点
消滅時効とは上記の通り、一定期間が経過した場合、その権利を行使する事ができなくなってしまう法律上の制度です。
※厳密に言えば、相手方(債務者)が「時効の援用」を行うことで、債権者が権利を行使することができなくなります。
旧民法では「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」と定められ、その起算点は「権利を行使することができる時」から進行すると規定されていました。
この期間と起算点について改正され、
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
の2本立てとなりました。
なお、旧商法下における商行為によって発生した債権の消滅時効の「5年間」の規定は削除されました。
※消滅時効は不法行為等、様々な例外がありますが、今回は一般的な債権の消滅時効のお話をします。
2.消滅時効を止めるには?
消滅時効を止めるには「時効の更新」「時効の完成猶予」と言う法律上の制度があります。
この言葉の意味が実は重要なのですが、「時効の更新」とは、進んでいた時効の期間がストップし、そのストップした時からまた時効の期間がスタートする(新しい起算点になる)、と言う意味です。
一方、「時効の完成猶予」とは文字通り時効の完成を猶予する制度であり、例えば令和2年1月1日に本来消滅時効が完成するところ、その完成を半年間猶予する(新しい起算点が発生しない)、と言った制度です。
3.時効の更新
時効が更新される主なものは下記のとおりです。
① 裁判上の請求
いわゆる訴訟の事です。裁判が終了するまでの間は時効は完成しません。確定判決や確定判決と同一の効力があるものにより権利が確定した場合、手続き終了時から時効が更新されます(新たな起算点から時効がスタートします)。
なお、訴えの却下や取下げ等で裁判上の手続きが終了した場合、6ヶ月間は時効は完成しません。
② 差押え
強制執行や担保権の実行等による手続きです。この手続きが終了するまでは時効は完成しません。なお、申立ての取下げや取消しによって手続きが終了した場合、終了のときから6ヶ月間は時効は完成しません。
なお、それ以外の理由によって手続きが終了した場合(手続きが何も問題なく普通に終わった場合)、時効が更新されます。
③ 承認
いわゆる債務者側が債権の存在を承認することです。承認した時点で時効が更新されます。
4.時効の完成猶予
① 仮差押え、仮処分
仮差押えが終了してから6ヶ月間は時効は完成しません。
② 催告
債権者が債務者に「●●契約における代金●●万円を支払ってよ!」と催告することです。
催告を行った場合、催告から6ヶ月間は時効は完成しません。
③ 協議
当事者間で協議を行った場合も、時効の完成猶予の制度があります。
5.民法改正前に発生した債権の消滅時効は何年?
ところで、ここまでのお話でこんな疑問が出てきませんか?
「民法改正前に発生した債権の時効の期間は何年なのか?例えば個人間でお金の貸し借りをした場合、その消滅時効は10年なの?それとも5年??」
この点につきまして、新民法の施行日である令和2年4月1日より前に生じた債権については、旧民法が適用され(附則10条4項)、同日以降に生じた債権については、新民法が適用されます。
また、上記の施行日以後に債権が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前にされたときは、旧法が適用されます(附則10条1項)。
なお、商事消滅時効について、施行日前にされた商行為によって生じた債権については、旧商法の適用を受けます(旧商法下の商行為による債権の消滅時効は5年です)。