こんにちは。甲斐です。
株式会社の場合、「株式」を発行する必要がありますが、この株主としての権利は様々なものがあります。
株主は保有している株式の数および内容に応じて平等に取り扱われるのが原則です。
しかし、場合によっては会社経営について柔軟な対応が必要になったときに、この株主平等の原則が足かせになる事があります。
そこで上記の原則の例外として、今回お話する「属人的株式」と言う株式が存在するのです。
1.属人的株式とは?
属人的株式とは、以下の3つの権利に関して、保有している株式の数に関わらず、株主ごとに異なる取扱いができる株式のことをいいます(会社法第109条2項)。
・剰余金の配当を受ける権利(株主配当)
・残余財産の分配を受ける権利(会社清算時の財産)
・株主総会における議決権
例えば、ある会社の発行済み株式の総数が200株で、株主がA:120株、B:50株、C:30株で、1株1議決権だった場合、Aが120個の議決権を持っていますので、株主総会の通常の決議であれば、Aの一存で全てが決まってしまいます。
しかし、Cについて1株につき5個の議決権とした場合、Cが150個の議決権を有しますので、今度は通常の決議についてCの一存で決める事が出来ます。
このように「株主ごと」に異なる内容を設定できるのが「属人的株式」です。
2.属人的株式の特徴
① 非公開会社で設定が可能
属人的株式は、非公開会社(発行する株式の全部について譲渡制限が設定されている会社)においてのみ設定が可能です。(会社法第109条2項)。
なお、現実には発行されていないけれど譲渡制限がない株式を発行できると定款で定めている会社は、非公開会社ではありませんので、この属人的株式の設定を行う事は出来ません。
② 株主総会で特殊決議が必要
属人的株式を定款に定める場合は、株主総会において定款変更の決議を行う必要がありますが、この場合
- 総株主の半数以上の株主が出席し、
- 総株主の議決権の4分の3以上の賛成
が必要になってきます(会社法第309条4項)。
これは通常の定款変更の決議よりも要件が厳しくなっていますので、属人的株式を設定する場合、かなりの根回しが必要になってくるでしょう。
③ 登記事項ではない
属人的株式の設定は、定款にその旨の記載が必要ですが登記事項ではありません。
この点は後ほどご紹介する種類株式と大きな違いといえます。
登記事項ではありませんので法務局への登記申請は不要ですし、会社の登記事項証明書に属人的株式の定めは反映されないため、定款を見られない限り、第三者に知られることはありません。
3.種類株式との違い
属人的株式とよく似た株式で、「種類株式」と言うのがあります。
属人的株式は「株主ごと」によって異なる内容の株式ですが、種類株式は「株主」ではなく、株式そのものに「異なる内容」を設定するのが大きな違いです。
なので、属人的株式を譲り受けても以前の株主の権利を行使する事は出来ませんが、種類株式の場合は譲り受けた場合、その種類株式の権利を行使する事は可能です。
また、株主総会の決議も属人的株式の設定の方が要件が厳しいのが特徴です(種類株式の設定は株主総会での特別決議です)。
4.属人的株式の注意点
① 剰余金の配当または残余財産の分配のどちらかは行う必要がある
「株主に剰余金の配当を受ける権利」及び「残余財産の分配を受ける権利に掲げる権利」の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しないとされています(会社法第105条2項)。
その為、属人的株式の設定をする際にどちらの権利も全く与えられない株主がいた場合、その定款の定めは無効になりますのでご注意下さい。
② 属人的株式は、なんでもかんでも設定できる訳ではない
属人的株式は、
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
について株主ごとに異なる定め設定する事ができ、各株主にとっては重大な影響を及ぼす制度となります。
株主総会の特殊決議の要件を満たせば属人的株式の設定は可能ですが、その一方で株主平等の原則があり、その原則が踏みにじられるとやはり「無効」と認定される場合があります。
属人的株式の定めによる特定の株主に対する差別的な扱いが、合理的な理由がない、正当性を欠いている、特定の株主の基本的権利を実質的に奪っているようなケースでは、当該定款変更にかかる株主総会決議は株主平等原則の趣旨に違反するものとして無効になる。
(東京地裁立川支部の平成25年9月25日判決)
5.まとめ
属人的株式は上手く活用できれば会社経営に非常にプラスになりますが、そのやり方を間違えると既存の株主の人間関係に亀裂を生じさせる可能性があります。
その為、属人的株式を設定する場合、株主に対してしっかりと根回しを行う事がポイントになってくるでしょう。