こんにちは。司法書士の甲斐です。
司法書士の代表的な業務は不動産や会社の「登記」です。
この登記業務は実体法と言われる民法や会社法、手続き法と呼ばれる不動産登記法や商業登記法と言った各種法律の規定に基づき行われるのですが、最近はこの登記手続きを「簡単にできる!」と言うサービスがリリースされています。
以前は登記と言えば一般の方から見れば良く分からないものであったのですが、このような登記が簡単に出来るというサービスが世の中に広まるにつれ(誤解されている部分もありますが)、登記に関する知識も世間に浸透する事になりました。
とそれと同時に「登記なんてどの司法書士がやっても同じになるんでしょ?しょせんはただの手続きだし」と言う考え方をされている方もいます。
どの司法書士が登記申請代理を行っても結果は同じになるのはその通りですが、ただその考えのまま司法書士に登記手続きを依頼するとちょっと困った事になるのです。
1.司法書士によって登記の結果が異なってはいけない理由
不動産登記の場合、まさに結果はどの司法書士が行っても同じになります。
例えば、不動産が実際に売買され、法律上も売買の要件を備えているのあれば、当然「売買」を原因として所有権移転登記がされるでしょう。
相続も同様、法律上の要件が備わっているのであれば「相続」を原因とする所有権移転登記がされます。
売買を原因として登記申請したのに結果として相続になったり、Aさんを購入者として登記申請したのにBさんが購入者として登記されたりなんて事はありません。
こんな感じで登記の結果が司法書士によって異なるようであれば、日本社会の法的安定性が揺らいでしまいます。
そのため、結果が同じになって当然でしかるべきです。
また、会社の登記である商業登記も同様です。
例えば取締役を1名追加したいにも関わらず、結果が取締役3名になってしまったら訳が分からない事になってしまいます。
資本金を300万円増やしたい場合も同様です。結果として1000万円増えたり、逆に500万円減ったりと言う事はありません。
資本金を300万円増やしたと言う法的要件がしっかりと備わって登記申請したのであれば、登記上も資本金が300万円増加した事になります。
このように、登記と言うのは既に発生した実体上の法律関係が確定した上で行われるものですので、どの司法書士が登記申請代理を行ったとしても、結果は同じであり同じであるべきなのです。
じゃあ「結局どの司法書士に依頼しても同じじゃん。だったら安い司法書士に依頼した方が良いよね。お金がもったいないし」と言う考え方の方もいらっしゃるかも知れませんが、それはちょっと早計な考え方でしょう。
2.結果は同じになるが、プロセスは全く異なる
登記手続きは結果は同じになりますが、その結果に至るまでのプロセスは各司法書士によって大きく異なります。
例えば不動産登記の場合、あくまで「実体上の法律関係がある事」が大前提であり、司法書士はこの法律関係が存在するのかと言った事の確認も求められます。
その為、不動産の売買であれば売主・買主の本人確認、売却対象の不動産の確認、売却意思の確認等を行った上で登記申請を行うのですが、司法書士によってはこのプロセスをテキトーに済ます者もいます。
時々ニュースになる「不動産の売主になりすました地面師」の話は、このプロセスをテキトーに行った場合に起こる可能性があるのです。
また司法書士事務所に良くある
- 父が認知症で意思能力がないけど、父名義の土地を売却したい。
- 税金の関係上、不動産を贈与した「こと」にしたい。
と言う相談ですが、これらは法律上の要件を満たしていないため、登記申請行う事ができません(意思能力が無ければ売買契約は出来ませんし、贈与した「こと」にして不動産の名義を変える事もありえません)。
その為、普通の司法書士であればこのような依頼は断ると思いますが、プロセスを重要視していない司法書士は受任する事もあるでしょう。そして後からトラブルになったり・・・。
なお会社の登記の場合、いわゆるコンサルティング的な要素が非常に高くなります。
例えば会社設立の場合、依頼者がどのような会社を作りたいのかを詳細にヒアリングし、ときには司法書士側から適切なアドバイスを行う事により、会社設立後の許認可の関係や融資等に影響が出る事もあります。
また、「資本金を増やしたい」と言ったご要望に対し、その理由は何なのか?と言った事を司法書士側が深く掘り下げる事により、資本金を増やす以外の選択肢も提案する事ができるのです。
このように、登記手続きの結果は全く同じになるのですが、そのプロセスは各司法書士によって全く異なってくるのです。
3.まとめ
最近、一部の方で
- 「士業の手続きなんて誰でもできるし簡単」
- 「自分でもできるんですけどね」
- 「士業なんてAIに取って代わられる」
と言った、専門職に対するリスペクトを欠く発言や行為をされている方がいらっしゃいます。
確かに士業が作成する書類の中には非常に簡単そうに見えるものはありますが、その結果を出すための「目に見えない」プロセスに対し非常に悩み考えていると言う事実についてもご理解いただければ、と思います。