こんにちは。司法書士の甲斐です。
会社の登記は様々ありますが、法務局への登記申請件数が多いのが、取締役に関する登記でしょう。
今回のテーマである「取締役の辞任登記」はまさにこの取締役に関する登記なのですが、登記に関するサービスを提供している会社やWebサイトでは「簡単な登記」の部類として取り扱われています。
辞任届を用意すればOK!みたいな感じで。
実はこれ、正解ですが大間違いなのです。
確かに取締役の辞任登記の添付書類としては辞任届だけでもOKですが、それ以外の事について様々な判断が必要になるんです。
では具体的にどんな判断が必要になってくるのか?分かりやすくお話していきましょう。
目次
1.まずは定款と登記事項証明書を用意して確認!
定款とは会社の基本的なルールを定めた物ですが、そこには取締役に関する事も書かれています。
ここで見るべきポイントは、「取締役の任期」と「取締役の定数」です。
一般的に中小企業は取締役の任期を最長の10年としている場合が多いのですが、会社によっては2年とか5年と言った短い期間にしている場合があります。
そこで最新の登記事項証明書と比較して、取締役の任期が過ぎているにも関わらず重任(任期満了+再任)の登記が漏れていないかをチェックする必要があります。
もし重任の登記が漏れている場合、重任登記等の対応を行う必要があるのです。
また、取締役の定足数にも注意が必要です。定款に「当会社の取締役の人数は3名以上とする」と記載があり、実際に3名しか取締役がいない場合、新たな取締役を株主総会で選任する必要があります。
つまり、この場合は「株主総会議事録」も必要になってくるので辞任届だけでOK!と言う訳にはいかないんです。
ちょっとしたトラップですね。
2.取締役が代表取締役である場合
さらに取締役が代表取締役である場合、当然ながら代表取締役の辞任登記も必要になってきます。
さらに、代表取締役が辞任する結果、代表取締役がいなくなってしまう場合、新たな代表取締役を選定する必要があります。
そして、ここでも定款の確認が必要になってきます。
なぜなら、代表取締役の選定方法は定款に定められている事が多く、その通りに代表取締役を選定しなければ無効になってしまうからです。
取締役会設置会社の場合は取締役会で選定すれば良いのですが、取締役会設置会社では無い場合、だいたい下記のように定款で定められています。
・取締役の互選によって取締役の中から選定。
・株主総会の決議により取締役の中から選定。
これは先程の取締役の任期と同様、定款を確認しなくては分かりませんし、法務局でも当然把握していません。
その為、定款や最新の登記事項証明書のチェックは、取締役の辞任登記を行う前提問題がないか?を調べる為にとっても重要なのです。
3.取締役の辞任登記の流れ・方法
① 辞任届を用意する
辞任する取締役が辞任届を用意します。
【辞任届(例)】
辞任届
株式会社○○御中
私は、今般一身上の都合により、貴社の取締役を辞任したく、お届けいたします。
令和3年○月○日
山田 太郎 ㊞
※印鑑は法律上認印でもOKですが、後々のトラブルを防止する為、実印を押すのが望ましいでしょう。
※代表取締役が辞任する場合、代表取締役個人の実印もしくは会社実印の押印が必要になります(個人実印の場合、印鑑証明書も必要になってきます)。
② 取締役、代表取締役を選定する(必要に応じて)
取締役の定数を割ってしまう場合、または定数は割らなくても代表取締役がいなくなってしまう場合、取締役、代表取締役の選定をそれぞれ行う必要があります。
取締役の選定は株主総会、代表取締役は定款の規定に従って選定します。
③ 登記申請
必要書類が整ったら、辞任から2週間以内に管轄の法務局に対して登記申請を行います。
具体的な方法は下記法務局のWebサイトをご確認下さい。
【株式会社(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)】
4.まとめ
以上、取締役の辞任登記についてザックリとした内容ですがお話しました。
どうでしょう?
自分で登記を行う事ができるサービスやサイトでは「司法書士に依頼しなくても簡単にできる」と言う謳い文句が乱立していますが、実際は辞任登記を行う前提問題として、沢山の事を確認する必要があります。
また、法務局の無料相談でもこれらの前提問題については確認出来ませんので、間違った登記がされる可能性がありますし、その修正にはさらに手間がかかってしまいます。
その為にはしっかりと登記について勉強する必要がありますし「面倒くさい」と嘆いても仕方がないのです。
もしこれらの事ができる自身がない場合は、お気軽に当事務所にご相談下さい。前提問題も漏らさずに間違いがない登記申請を行います。