
こんにちは。司法書士の甲斐(@tomoya_kai)です。
会社を作る時に登記申請は必要になってきますが、不動産を購入した時も、事実上登記申請を行う事になります。
多くの場合、司法書士に委任して登記手続きを行いますが、登記申請は本人でも行う事が出来ますので(特に現金購入で)、自分で登記申請を行う不動産の買主さんがいるようです。
ただ、彼らの言い分を見ていると「?」と思える言葉があるんです。
そして、司法書士へ支払う報酬がもったいないので自分で登記してしまおう、と。
確かに、登記申請は自分で行う事が出来ます。
不動産登記法上でも、司法書士のような代理人に委任する事は義務となっていません。
しかし、「登記は自分で出来る」=「登記は簡単」ではないのです。
所有者の住所変更登記と言った簡単な部類の登記は確かにありますが、不動産の売主と買主と言った相反する当事者が関与する登記は、正直言って簡単ではありません。
事実、不動産の買主がご本人で登記申請を行い、様々な失敗をしているケースが見受けられます。
そこで今回は、不動産を購入した時にご自身で登記申請を行う際の危険性についてお話したいと思います。
見る人から見れば
「仕事を取られたくない司法書士が何か必死に言ってるw」
と思うかもしれませんが、全て事実ですのでそこはご理解下さい。
1.自分で登記(セルフ登記)する危険性
① 売主がなりすまし(地面師)の可能性がある
積水ハウスが売主のなりすまし(地面師)に約60億円を騙し取られた事件は記憶に新しいですが、不動産取引では昔から地面師は存在しています。
本人登記申請を行う場合、この「地面師」に騙される危険性があります。
と言えば、
「司法書士だって地面師を見抜く事ができないでしょ?」
と言う反論がきますが、長年の経験から偽造された書類を見抜いた司法書士も実際にいるんですね。
さらに、地面師が関与する不動産の取り引きには特徴があり、各県の司法書士会から情報提供がされています。
その為、慎重に業務を行ったり、決済を延長させると言った処置を取る事で地面師の被害を回避する事もあるのです。
② 補正・却下の際に売主が協力してくれない可能性がある
実務上多いのがこのパターンだと思います。
登記申請を行い、何らかの不備が発生した場合、その不備を解消する為の「補正」を法務局から求められる事があります。
また、そもそも補正が出来ない登記申請等が却下されたり取下げを要求される事があります。
で、この時に売主から再度書類に押印してもらう等、売主の協力が必要になってくる事があるのですが、その時に売主から不審に思われて、協力してもらえない事もあるんです。
そりゃそうですよね。
自分で登記できると言って任せたのにそれが出来ないなんて、売主の立場になって考えたら信用できないですよね?
また、売主に協力してもらうと思ったのに、売主と連絡が取れなくなったしまった事例もあるようです。
このように、何千万と言った代金は支払ったにも関わらず不動産の登記名義は変わらないと言った、最悪な状況に発展する可能性もあるのです。
2.司法書士は書類を作っているだけではない
これ、良く勘違いされているのですが、不動産の登記申請において、司法書士は書類を作っている「だけ」ではないんですね。
言い方は悪いかも知れませんが、登記申請書等の書類の作成は法的判断の「結果」に過ぎません。
どう言う事なのか?
司法書士は不動産取引において、主に以下のような仕事(法的判断)をしています。
- 売主・買主は本人に間違いはないか?
- 売買対象の不動産は間違いがないか?契約当事者に売買の意思はちゃんとあるか?
- 民法、その他の法令に基づいて、不動産の所有権が実体法上移転したか?
- 不動産登記法その他関連の法令に基づいて、登記申請に必要となる書類が揃っているか?
このようなチェックを一つ一つ行い、登記申請が問題無く行える事を判断するのです。
不動産の登記申請書だけを見ますと非常に簡単な日本語が並んでいますので、一見誰でも簡単に登記申請を行う事が出来るように思えます。
しかし、重要なのは書類の作成ではなく、そこに至るまでの法的判断です。
その判断が適切に行えていないのであれば、書類を作ったとしても全く無意味なのです。
3.不動産投資の情報商材やインフルエンサーの存在
「不動産を購入して登記を自分でした」系のお話を良く観察してみますと、最近は「不動産投資」を行っている人が「セルフ登記」をしているケースが多いような印象があります。
で、もっと調べてみると、どうも不動産投資の情報商材が関係してくるのかなーと推測できるんです。
こんなやつですね。
また、最近ではTwitter等で不動産投資のインフルエンサーが情報発信している事もあり、彼らのライフスタイルに憧れてた人が、見よう見まねで不動産取引の世界に足を踏み入れている雰囲気がします。
そう、インフルエンサーがもっとも大好きな「情報弱者」です。
が何千万円の不動産取引において、たかだか数万円の司法書士報酬をケチると言う図式を生んでいるのでは、と推測しています。
4.まとめ
大切なのでもう一度言います。
不動産取引における司法書士の仕事は書類の作成ではなく「法的判断」です。
- 売主・買主は本人に間違いはないか?
- 売買対象の不動産は間違いがないか?契約当事者に売買の意思はちゃんとあるか?
- 民法、その他の法令に基づいて、不動産の所有権が実体法上移転したか?
- 不動産登記法その他関連の法令に基づいて、登記申請に必要となる書類が揃っているか?
簡単そうに見える登記申請書の裏側にはこのような判断があり、これらの判断を適切に行うからこそ、問題がない登記申請を行う事が出来るのです。
ご自身で登記をしても良いですが、もしこのような判断に自信がないと思われるのであれば、素直に司法書士に依頼した方が良いでしょう。
「間違っても何とかなる」は不動産取引では通用しませんので。