こんにちは。甲斐です。
論理的思考が非常に重要である事は、皆さん十分理解していると思います。
そして、論理的思考を鍛える為に具体的なトレーニングを色々とされていると思いますが、そのトレーニング方法として「二項対立」と言う方法があるのをご存知でしょうか?
この本でご紹介されているように、二項対立は論理的思考を鍛える上で有益なトレーニングなのですが、実は大きな落とし穴があるのをご存知でしょうか?
1.二項対立とは
二項対立とは文字通り「二つの対立軸で物事を考える事」です。
例えば、
- 理想と現実
- 原則と例外
- 抽象論と具体論
こんな感じで「A」と言う主張と「B」と言う主張を戦わせるわけです。
そして自分が「A」と言う主張をしたい場合、その反対の立場である「B」から予想される反論について、予め分析する事で「A」と言う主張の説得力が増す事になります。
このように、この世の全ての問題について突き詰めて考えると、異なる二つの考え方の対立があると考えるのが「二項対立」であり、論理的思考を鍛える為のトレーニングとして良く使われます。
例題を挙げてみましょう。
「司法書士の独占業務である会社設立登記を、他士業に開放すべきか?」を考えて見ましょう。
会社は登記を行う事で成立し、その登記申請は原則として司法書士の独占業務であり(例外あり)、司法書士以外の者が登記の相談等を行うのは違法になります。
しかしながら、実際は「会社設立」等のキーワードで検索すると、会社設立業務を行っている税理士や行政書士のHPがヒットします。
その昔「会社設立(商業登記)を行政書士に開放すべき」論と言うのがあったぐらい、会社設立に関しては議論が混沌としているのですが、この「他士業に会社設立登記を開放すべきか?」を二項対立で考えてみましょう。
【解放すべき】・・・実質論
・会社設立を希望する人は真っ先に税理士に相談する事がほとんど。会社を作った後も税務上の手続きが発生するので、税理士が登記申請を行えた方が利用者にとっても利便性がある。
・定款作成は行政書士の業務。定款こそ会社設立における重要な要素であり、実際に定款作成の為に行政書士の元を訪れる相談者は多い。その為、その後の登記申請を行政書士が行えた方が、税理士と同様に利用者にとって利便性がある。
・そもそも登記申請は簡単なので、他士業に開放した所で何も問題はない。
【開放すべきではない】・・・形式論
・個人事業主をやっている人が必ずしも信頼が出来る税理士や行政書士と知り合っているとは限らない。これから事業を行うとしている人も同様で、必ずしも初めに税理士や行政書士に相談するとは限らない。
・定款作成は行政書士の業務であるが、司法書士も会社設立の為の定款作成を行う事は出来る。
・登記申請書だけを見れば会社設立登記は簡単に見えるが、実際は考慮すべき様々な点があり、登記申請書はその様々な事を考慮した結果に過ぎず、それをもって「登記申請は簡単」と言うのは間違っている。
・そもそも、税理士や行政書士はその制度趣旨から考え、登記業務を行う事は想定されていない。事実、試験科目に登記業務に必要不可欠な科目(商業登記法)がない。
このようにお互いの立場から主張をぶつけ合い、論理的に展開させるのが二項対立です。
今回のケースの二項対立のポイントは、「顧客の利便性」(実質論)と「制度趣旨」(形式論)です。
確かに、顧客から見れば一人の士業がワンストップで行えれば、非常に楽でしょう。
でも、「顧客の利便性」は全てにおいて優先されるべき事項なのでしょうか?
「顧客の利便性」を考えれば、そもそも会社設立業務において司法書士が最初の相談先になっても何も問題はないでしょう。
また、度趣旨から考え、司法書士とは異なり他士業は登記業務は想定されておらず、その為の能力担保もされていません(試験科目に商業登記法がありません。税理士においては会社法も試験科目にありません)。
さらに、万が一事故が発生して会社設立が無効となったとしても、士業の損害賠償保険ではカバー出来ないのです。
このように二項対立で整理して考えると、どちらの主張の方がより論理的で説得力があるかが見えてくるはずです。
2.二項対立の落とし穴
二項対立の視点で物事を考えるとロジカル・シンキングを鍛える事が出来るのですが、二項対立には大きな落とし穴があります。
それは、二項対立は「A」と「B」の主張を戦わせて、どちらの主張が説得力があるかを考える思考です。
つまり、答えが「A」か「B」ありきで、別の「C」と言う視点が無いのです。
現実社会における問題の解決方法は「A」と「B」と言う二つだけではなく、全く別の視点から結論付けられる「C]と言う解決方法がある事が大いにあります。
それにも関わらず、二項対立の考え方は「どちらか一方の主張について説得力を持たせる事」に目的がありますので、別の解決策を考える事について、どうしても意識が薄くなってしまうのです。
その為、二項対立を利用するのであれば、「二項対立+α」を常に意識する必要があるでしょう。
3.まとめ
- 二項対立で考えると論理的思考を鍛えるトレーニングになる。
- 二項対立だけでは問題は解決しない、別の「C」と言う視点も必要。
上のケースであれば「C]の視点は、「他士業同士が一緒に会社設立業務の相談を受ける」でしょう。
そうすれば面談における顧客の負担も減りますし、同時に複数の士業と知り合う事ができると言う顧客の利益にも繋がります。
「顧客の利便性」「顧客の利益」を錦の旗にしないで、本当の意味で顧客の問題を解決する方法を模索すべきでしょう。