契約書に実印が必須な理由。二段の推定とは?

契約書

こんにちは。甲斐です。

子供の頃、両親から

「実印は簡単に押しちゃダメだよ。」

と言われた事はありませんか?

これは、契約書の内容を良く理解していなくても実印を押してしまえば、その内容を全て承諾したものとなる。

だから、後から「そんな事は知らない」と言う事が難しくなる、と言う意味合いです。

実際にその通りなのですが、そもそも何故「実印を押す」=「契約書の内容を承諾したもの」と言う論理になるのでしょうか?

実はこれは裁判所の判例と民事訴訟法の条文から導き出される「二段の推定」と言う論理なのです。

今回はこの二段の推定のお話から、契約書に実印を押してもらう必要性を紐解いてみたいと思います。

1.裁判を行った場合の契約書の取扱い

まずは基本をおさらいしましょう。

契約は原則として口頭で成立しますので、本来は契約書の作成は必要ありません。

それではなぜ何らかの取り引きを行う上で契約書を作成するのが一般的かと言いますと、後から「言った言わない」と言ったトラブルを回避する証拠とする為です。

そして実際にトラブルになり裁判を行う場合、裁判所に証拠である契約書を提示して、裁判所に判断をしてもらいます。

この証拠である契約書については、民事訴訟法のルールとして、ある取扱いを行う事になっているのです(民事訴訟法第228条1項)。

(文書の成立)
第228条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

分かりやすく言えば、証拠としての文書は、「当事者の意思に基づいて間違いなく作成された事」を証明する必要があると言う事です。

これ、言葉で言うと簡単なのですが、実際に証明するのは非常に難しいんです。

その為、その立証負担を軽減するため、私文書については特別の規定が設けられています(民事訴訟法第228条4項)。

第228条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
(2項、3項省略)
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

このように、文書作成者の署名又は押印がある時は、その文書が当事者の意思に基づいて作成された事が推定されます。

ただ、問題になるのが「押印」つまり、印鑑です。

印鑑は100円ショップでも販売されており、誰でも簡単に入手できて、契約書に押印する事ができます。

つまり、当事者間で契約の有効性に争いがあり、契約が有効に成立する事を主張したい場合、相手方が自分の意思に基づき、押印した事を証明する必要が出てくるのです。

「相手が自分の意思に基づいて押印した事」なんて証明するのはほぼ不可能でしょう。

そこで裁判所が判例で、上記の押印された印鑑が「実印」の場合、特別の推定を行う事にしました。

それが「二段の推定」です。

2.二段の推定とは?

簡単に言うと契約書に「実印」で押印した場合、

  • 押印された印影について、本人の意思で実印を押されたことが事実上推定されます。
  • そして、本人の意思で実印を押したのであれば、民事訴訟法第228条4項によって、当事者の意思に基づいて契約が成立したと推定されるのです。

このように二段階の推定を行うので、「二段の推定」と呼ばれています。

私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。
(最判昭39・5・12)

つまり、

裁判官「この契約書に押されている印鑑は、あなたの実印ですか?」
相手方「はい。そうです。」

たったこれだけのやり取りで、契約書の内容が全て本当であることが証明されるのです。

相手方がこれを覆すためには、実印が盗まれた等、自分の意思で実印を押していない事と言った、非常にハードルが高い立証が要求されるのです。

3.契約書に実印を押してもらう理由は、全てこの「二段の推定」がある為

本来、契約書に押印する印鑑について、特に法律上の決まりはありません。

しかし、例えばマイホームを購入したことがある方は記憶にあるかも知れませんが、不動産の売買契約書や住宅ローンの契約書に押した印鑑は実印のはずです。

このように、特に重要な契約の場合、個人でも法人であっても(法人にも実印は存在します)、実印を押すケースが多いのは、正にこの「二段の推定」があるからです。

相手に実印さえ押して貰えれば、万が一トラブルになったとしても、裁判に勝つ可能性がかなり高くなります。

だからこそ相手には、契約書に実印を押してもらう事をお願いした方が良いのですが、その一方で注意点があります。

それは、

あなたが契約書に実印を押した場合でも、この二段の推定が働く。

と言う点です。

その為、特に相手方が用意した契約書に実印を押す場合、必ずその内容を確認し、分からない点があれば遠慮せず質問するようにして下さい。

実印を押した後では、「そんな事は聞いていない」と言うのが非常に難しくなりますので。

4.まとめ

もう一度おさらいしましょう。

「二段の推定」は、契約書に実印を押した場合に、

裁判官「この契約書に押されている印鑑は、あなたの実印ですか?」

相手方「はい。そうです。」

たったこれだけのやり取りで、契約書の内容が全て本当である事が証明される論理です。

だからこそ、契約の相手に実印を押してもらう事は重要になりますし、あなたも実印を押す時は、細心の注意を払う必要がある事を忘れないようにして下さい。

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甲斐 智也

甲斐 智也

表現者。元舞台俳優。演劇を活用した論理と感性のハイブリッドコンサル。趣味はキックボクシングとランニング

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表現者。元舞台俳優。演劇を活用した論理と感性のハイブリッドコンサル (詳しい自己紹介は画像をクリック!)。

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