こんにちは。甲斐です。
ビジネス上でもそれ以外でも、当事者が何らかの契約を締結した場合、契約違反等の事情がない限り一方当事者からの契約解除は原則として出来ません。
しかし、当事者双方が合意によって契約を解除する事はもちろん可能です。
コンサルティング契約のように長期間に及ぶ契約の場合、初めに気が付かなかった当事者の価値観やその他事後的な理由から、契約を合意解除する事があります。
ただその場合、「既にコンサルタントが受け取った報酬についてどのように返金すれば良いのか?」と言う問題が出てきます。
合意解除による返金について、契約の内容を決めていれば基本的にそれに従った処理をすべきですが、契約の内容としていない場合、法律上どのように対応すれば良いのか?
今回はその「合意解除による法律上の返金のルール」についてお話します。
1.「不当利得」とは?
この合意解除による返金の問題、法律上は「不当利得」と呼んでいます。不当利得とは簡単に言えば、「法律上の原因なく得ている利益」の事です。
民法第703条に規定されています。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
契約を合意解除したと言う事は、お互いの契約関係が終了する事になります。
「不当」なんて少し悪そうな言葉になっていますが、元々の契約関係から発生した利益について、「『その利益が存在する限度において』返還して下さいね」と言うのが不当利得の趣旨です。
最初にお話したとおり、契約の中で返金に関する規定を決めていればそのとおりに処理をすれば良いのですが、返金に関する規定を決めていない場合、問題になってくるのが「その利益が存在する限度」(これを「現存利益」と言います。)です。
「利益が存在する限度」で返金するのがルールなので、この言葉の意味が何なのか?についてが不当利得のポイントの一つになってきます。
2.契約が合意解除された場合の現存利益
① 民法の教科書的な話
最初に、民法の教科書に良く書いてある、一般的な現存利益のお話をします。
AさんはAさん所有の最新式のパソコンを10万円でBさんに売りました。パソコンも引き渡され、代金も支払われたのですが、その後、売買契約は合意解除されました。
この時、Aさんは売買代金10万円のうち、①3万円を生活費、②2万円を学費、③5万円を旅行代に使っていました。Aさんが返金すべき金額はいくらでしょうか?
Bさんは勿論、手元のパソコンをAさんに返す必要があります。パソコンが手元にある事自体が現存利益ですので。
問題はAさんです。事例のように10万円を全て使っているのですが、ここで言う「現存利益」とは何なのでしょうか?
実はここで言う現存利益とは①と②であり、③の旅行代は現存利益ではないのです。
①及び②は必ず支払わなくてはいけないお金であり、売買代金から支払う事によって元々のAさんのお金が減る事はなかったからです。
一方、③の旅行代は遊興費であり、日常生活で必ず発生する支払いではない為、法律上は現存利益ではないと見なされます。
一般的な感覚ではどう考えてもおかしいのですが、法律上はは①と②が現存利益となるのです。
② コンサルティング契約の場合はどう考える?
実はコンサルティング契約のような「無形商材」の場合、不当利得による現存利益の考え方が少し難しくなります。
そもそも「無形商材」の為、サービスを受けた側は返品のしようがありません。その為、既にサービスが提供された部分についての返金を請求するのは難しいでしょう。
例えば、1年間のコンサルティング契約で、
- 毎月の報酬が10万円(既に年間報酬として120万円を一括で支払っている)。
- 5ヶ月間を残して契約を合意解除した。
この場合、5ヶ月間×10万円の50万円が現存利益と考えるのが妥当でしょう(上記のように遊興費等の問題が出てくる場合がありますが・・・。)
なお、この5ヶ月間で行うはずだったコンサルに関する準備として、何らかの費用をコンサル側が既に負担している場合、「その費用は現存利益ではないので返金されない」と言う判断も妥当かも知れません。
3.まとめ
このように、不当利得や現存利益の考え方は非常にややこしい事があります。
その為、合意解除に関する返金のルールは契約の内容としてしっかり決める事をお勧めします。
それが大人としてビジネスを行う、相手に対する最低限の礼儀だと思いますので。