こんにちは。司法書士の甲斐です。
以前、株式会社の代表取締役が死亡した場合の登記手続きについて解説しましたが、今回はその合同会社バージョンのお話をします。
株式会社と比較して簡易な手続きがウリな為、法務局での合同会社の設立件数は増えてきていますが、株式会社との違いについてはしっかりと抑える必要があります。
今回のテーマである「(代表)社員」が亡くなった場合の相続のお話も株式会社とは手続きが違いますので、このページでしっかりと理解するようにしましょう。
1.合同会社の(代表)社員が亡くなった場合の原則
実は会社法上のルールとして、合同会社の社員が死亡しても、相続人はその地位を相続する事が出来ないのです(会社法第607条)。
(法定退社)
第六百七条 社員は、前条、第六百九条第一項、第六百四十二条第二項及び第八百四十五条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。
一 定款で定めた事由の発生
二 総社員の同意
三 死亡
四 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)
(以下、省略)
「退社」つまり、その合同会社の社員としての資格が消滅する事を言います。
そして、唯一の社員が死亡する(退社する)と、社員が一人もいなくなり、そうなってしまった合同会社は、会社法のルールで解散してしまうことになってしまいます。
一方、亡くなった社員の相続人ができる事と言えば、出資持分の払戻しを請求する権利を取得するだけとなります。
これが会社法上の原則的なルールなので、例えば父親の合同会社を引き続きたい子供がいた場合は困った事になってしまいますね。
2.例外。定款で別のルールを決めておこう
実は上記の原則論は、定款で別のルールを決める事ができます。「社員が死亡しても退社した事にはならず、相続人が社員になる事ができる」的な別のルールですね。
具体的にはこんな感じです。
(社員の相続及び合併)
第●条 社員が死亡し又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継して社員となることができる。
上記の場合、亡くなった社員の持分については株式会社の株式の相続と同様に、他に相続人がいた場合、相続人全員が社員の地位を相続する事になります。
その為、社員の死亡と同時に社員の地位を相続する人を決めておきたい場合、遺言で持分を相続する者を決めておく対策を取った方が良いでしょう。
3.(代表)社員が亡くなった場合の登記手続きの注意点
合同会社の社員が亡くなった場合、その社員の退社の登記申請と、(定款の規定がある場合は)相続人を社員として加入させる登記申請が必要になります。
ここでの注意点は、
- 相続人が複数いる場合で、
- 相続人全員による「社員を相続する者」を決めた遺産分割協議書を添付しても
- 登記申請は受理されない。
と言う(先例があると言う)点です。
(昭和34年1月14日民甲第2723号民事局長回答)
(昭和36年8月14日民甲第2016号民事局長回答)
(昭和38年5月14日民甲第1357号民事局長回答)
相続人が複数いる場合、相続人は相続開始と同時にその相続分に応じて亡くなった社員の地位を相続します。
この場合、亡くなった社員の地位は権利義務を包括したものであって、社員となった事によって生じた債務は分割する事はできません。
その為、遺産分割協議によって相続人の一人に亡くなった社員の地位を相続させるとしても、その協議は効力がないと解されています。
その為、登記手続きとしては、
・亡くなった社員の死亡による退任の登記
・共同相続人全員による、社員としての加入の登記
・社員としての地位を欲しない相続人の退社の登記
を行う必要があります。
4.まとめ
簡単に(代表)社員が亡くなった場合の手続きをお話しましたが、株式会社の場合とは異なり、非常にややこしくなっている、と言うのが印象ではないでしょうか?
今回の登記手続きについては法務省のホームページにもひな形は掲載されていない、難しい登記の部類ですので、お困り・お悩みの場合はお気軽に司法書士にご相談するようにしましょう。