あなたは「お客様の利益のため」と言う意味を勘違いしていないか?

マーケティング

こんにちは。司法書士の甲斐(@tomoya_kai)です。

ビジネスの基本中の基本は「クライアント(お客様)の利益を追求する事」です。

「クライアントの利益」は色々とあるのですが、私のような法的手続きを専門としている場合、「その法的手続きが一般の方でも簡単に行えるようにする事」がクライアントの利益に繋がると考えられます。

こんな感じですね。

「登記」と言うのは主に不動産や会社に関する事です。

売買や贈与、相続を原因として不動産所有者の名義を変更したり、会社設立手続きを行ったり、これらは司法書士が専門とする手続きであり、この手続きはもっと簡単にした方が良いと言う主張です。

一般の方は、この主張に大賛成だと思います。

ただ、この主張は様々な論点があり、「それって本当にクライアントの利益に繋がるの?」と言う点が実は置いてけぼりになっているんですね。

なので、私はこのような引用リツイートを行いました。

裁判も本人訴訟が原則なので、もっと簡単にすべきと言う主張です。

裁判所に聞けば実体法上の権利関係の整理から訴状の書き方まで、1から10まで全て教えてくれる。

これは一見、一般の方にとってみれば簡単に裁判手続きが出来ますし、非常に嬉しいと思いますが、実は大きな問題が孕んでいるんです。

その問題に気が付いていますか?と言う意味の引用リツイートです。

そこで今回は具体例として裁判と登記を挙げ、「クライアントの利益とは何なのか?」と言う視点のお話をしたいと思います。

特にマーケターやコンサルタントを名乗る人に読んで欲しい記事です。

「マーケターと言うわりには、考え方浅いですねw」

と笑われない為にも・・・。

1.裁判手続きが簡単になるってどう言うこと?

裁判(民事)は法的な利害が対立する二人の主張に対して、裁判官が当事者の主張や証拠等を元にジャッジする手続きです。

訴える方(権利を主張する方)を「原告」、訴えられる方を「被告」と言いますね。

そして裁判は「実体法上の権利+民事訴訟法上のルール」で進んで行きます。

例えばあなたが誰かにお金を貸して返してもらえないので裁判をする事を決めたとします。

弁護士や司法書士を活用しないのであれば、本を読んだり、裁判所に裁判のやり方を聞くと思います。

で、この時に裁判所が教えてくれるのは、あくまで「訴状の書き方」等の民事訴訟法上の手続きであって、そもそも本当にお金の貸し借りはあったのか?あった場合、どのような証拠を用意すべきか?と言った実態法上の権利関係についは深く突っ込まないですね。

本来は実態法上の権利関係の方が難しいのですが。

つまり、裁判手続きが簡単になると言う事は、裁判所に聞けば簡単に手続きが進むと言う事、つまり、裁判所が訴訟を行う前に、当事者の権利関係についてズカズカと入り込んでくると言う事になります。

これは訴えられた側(被告)側が提出する答弁書も同様ですね。

さて、これには大きな問題があるのですが、これの何が問題なのか分かりますか?

裁判所は本来中立な立場で原告・被告が主張した内容について精査し、最終的な判断を下します。

つまり、訴訟の前の段階で実態法上までツッコんだ対応を行う事により、当事者のどちらかに一方的に有利なアドバイスを行ってしまう危険性があるのです。

・これ、本当にお金の貸し借りですか?本当は違う権利関係じゃないんですか?だったらそっちを主張しましょう。
・証拠はこれとこれを用意して下さい。え、ない?じゃあ今から用意しましょう。やり方はこうです。
・これだったら時効援用出来ますね。そのように答弁書に書きましょう。

裁判が簡単になる結果、裁判所がメチャクチャ不公平な事を行えば、一般の方の不利益に繋がる事は容易に想像できますよね?

2.登記手続きが簡単になった場合も、同様の不利益がある

登記手続きも裁判と同様、「実態法上の権利関係+不動産(商業)登記法上のルール」で進んで行きます。

不動産登記であれば、不動産の所有者の住所変更とか一部の単独申請を除いて、当事者が複数存在します。

売買や贈与、相続と言った原因で不動産の名義を得る人と、名義を失う人、つまり裁判と同じような利害関係ですね。

で、登記手続きを簡単にすると言う事は、「本当に売買や贈与が行われたのか?」と言った実態法上の権利関係について、法務局が積極的に関与する事になり、裁判と同様、当事者の一方について不公平なアドバイスを行う可能性もあるのです。

これでは現場は大混乱になります。

3.じゃあ、手続きだけを簡単にすれば良いのでは?

じゃあ、「実態法上の権利関係には踏み込まず、登記手続きだけをもっと簡単にすれば良い!」と言う考え方もあるでしょう。

ではその場合どのような結果が起きるのか?

実は司法書士事務所にはこのような相談が良くあります。

親の不動産の名義を自分にしたいのですが。え?何で子供名義に自由に変更出来ないのですか?親はどこにいるかって?認知症で会話も出来ず一人暮らしが出来ないので施設にいますけど?え、それじゃ無理?何で?

要するに、実態法上の権利関係が無いにも関わらず、不動産の名義を変えたいと言うお話ですね。

もし不動産の登記申請手続きが簡略化されれば、親名義の不動産について、いつの間にか子供の名義になっていた、何て事が起こり得るのです。

親子間の話しであればまだ良いのですが(いや、NGですが)、これが売買の場合、つまり売主になりすました地面師だったらどうでしょうか?

ある日突然、自分の土地が他人名義になっていてそこから転売されていた、なんて恐ろしい事が起こり得るのです。

これは本当に「クライアントの利益」と言えるのでしょうか?

4.「クライアントの利益のため」で思考停止しない

「クライアントの利益のために」と言う意識は何も司法書士を含む士業だけではなく、ビジネスパーソンであれば絶対に考えるべき事です。

しかし、「クライアントの利益のために」と言う言葉そのものが非常に耳ざわりが良く、表面上の事をなぞっただけで、「俺はクライアントの利益の事を常に考えている」と言う結論になりがちです。

しかし、それは本当にクライアントの利益になるのでしょうか?

裁判手続き、登記申請手続きをもっと簡単にすれば、表面上は一般の方の利益になるかも知れません。

しかし、良く考えていけば一般の方の利益を害する結果にもなり、簡単にする事が一般の方の為にはならず、むしろルールを厳格にした方が一般の方の利益を守る事ができる、と言う結論だってあり得るのです。

マーケターやコンサルタント、その他の専門家は、クライアントが行きたい場所に連れて行くだけではなく、「クライアントが本来行くべき場所」に連れていくのが本当の仕事です。

この事を突き詰めていけば、「クライアントの利益」について深く洞察する事が出来るでしょう。

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